麻帆良コスプレ戦隊麻帆レンジャー 「……というのが、今回の任務だ」 切羽詰ったような刹那の言葉を、その場にいた全員が固唾を飲んで見守る。 その部屋に佇むは、麻帆良学園の裏を牛耳る五人の猛者達。 一人は、黒い長髪と褐色の肌をした、どこか突き放したような眼差しの女――『魔眼』龍宮真名。 壁に寄りかかった龍宮の脇に座り込んでいるのは、黄色がかった髪を両脇で結び、花火のように 散らした少女――『中武研の突貫猪娘』古菲。 龍宮と古菲の対面に座っているのは、小柄ながらも氷のような煌めきと、確かな『芯』を感じられる瞳をした 黒髪の少女、『止水』桜咲刹那。 さらに、刹那の座っているその後ろ、ニ段ベッドの上で全体を見下ろすように佇む、長身で細目の、 しかしどこか底の知れない風貌をした、『甲賀中忍』『DEATH・細目』長瀬楓。 そして最後、四人の輪から離れた場所に佇むのは、床に届きそうな程に長い金色を長髪をして、 どこか侮蔑の篭った視線を四人に投げ掛けている小柄な少女。 実年齢は数百歳、人間の遥か上を行く最強最悪のロリコン吸血鬼――『人形使い』『闇の福音』エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。 実質、麻帆良学園最強と言って過言ではないこの五人は、今、麻帆良中等部女子寮の一角―― 今は使われていない、寮の空き部屋に集っていた。 時刻は既に夜の八時を過ぎていたが、カーテンは完全に締め切られ、電灯も薄く光を放つ程度で、 部屋の中は薄暗く、相手同士の姿は茫洋にしか映らない。 「・・・ふむ、それでこれを使う訳でござるな?」 少し思案したような物言いで、楓が言う。さらに古菲が「こんなん本当に使っていいんアルか?」と、 続けるように口を開いた。 「正直、私は気が進まないんだがな」 「同感だ、なんでこの私がこんな物を使わなければならない」 龍宮とエヴァが口を揃え、どこか飽きれたように呟く。 刹那はそんな四人をぐるりと一瞥して、目を閉じた。 ――――これも全ては、学園の――――そして、お嬢様の平穏のためなのだ。 そう自分に言い聞かせて、ゆっくりと立ち上がり、廊下に続く扉に手をかけた。 「これ以上迷っている時間はない。八時三十分までが期限だ――――お前達が受けないのなら、私一人ででも受ける」 「――――本当にやるのか、刹那。私達は二度と、戻ってこられないのかもしれないんだぞ?」 扉を開きかけた刹那に、龍宮がどこか脅すように言葉を投げ掛ける。 しかし、刹那の意思は堅かった。 「今更さ。私はもう何度もこんな経験をしている――――恐ろしいのならばついて来なくても構わない。 ただ、私には迷ってる時間が惜しいんだ。私の決意は変わらない」 本来ならこの依頼は、ここに揃った五人に向けての依頼だった。 しかし、おそらく刹那は一人ででもこの依頼を受け、そして完遂するつもりなのだろう。 自分だけが犠牲になってでも、友人の、守るべき人のためならば、労を厭わない。 (――――全く、馬鹿な友人を持つと苦労するな――――) 心の中で、龍宮は苦笑する。 刹那とは長い付き合いだ。これからどうするべきか、龍宮には分かっていた。 「仕方ない、私もこの仕事を受けよう。折角の依頼だし、受けるのはやぶさかでない」 すっ、と龍宮は壁から背を離し、刹那の方に歩む。 楓、古菲も続けて刹那に近寄った。 ――――最後まで納得していなかったエヴァも、フン、とそっぽを向きながら、しかしやや気恥ずかしそうな 様子で、刹那の前に移動する。 役者は揃った。 ――――戦いが、始まった。 ■ 「違うわよぉぉぉぉぉぉぉ! そこはもっと腰をこう! 手をこう! そしてはい、そこで決める! だから違うぅぅぅぅぅぅぅ!!!」 くねくねと腰を動かし、五人に駄目だしをする男。 麻帆良学園出身の振り付け師・ジョン=トナカイ氏。日系ブラジル人だ。アフロ頭にぴちぴちのレオタード姿で、 何か奇妙なポーズをとっている。 昨日の内に依頼を受けた五人を待っていたのは、彼の指導の元での『決めポーズ』練習だった。 練習場所として提供されたのは、麻帆良大学部の地下スタジオ。その気になれば野球でもできそうなくらいに 広々とした鏡張りのスタジオは、蛍光灯の光が反射して、地下だというのにやたらと明るい。 そんなスタジオの中心で、五人はひたすらに練習に励んでいた。 今の時刻は午前六時。ここに集って練習を開始したのが午前四時だったから、既に二時間近く演技指導を受けている。 それも全て、依頼を完遂するために必要なことなのだ。ことなのだが―――― (……なんで私がこんな目に……) 龍宮は、今頃になって後悔していた。 ものっそい後悔していた。友人をたまには信じなくても良かったと思った。 それは何故か?何故って言われたら、そりゃ今の自分のこの姿を見れば、誰だってそんな理由はわかってしまうだろう。 端的に言えば、龍宮の服装、それはスク水だった。白いスクール水着。胸元に「たつみや」ってひらがなで書いてある。 龍宮の横にいるエヴァは、水色の小さなワンピースみたいな服装だ。頭に黄色い防止をかぶり、胸元にチューリップを模した 抽象的なマークの名札ばっぢをつけている。どっからどー見ても幼稚園児の服装だ。 龍宮の右前方、もはや吹っ切れた様子の刹那は、体操着姿だ。中等部指定の体操着は短パンだった気がするが、刹那がはいているのは ブルマだ。赤色の。それとニーソックスを履いている。 古菲はセーラー服だ。セーラー服と言っても、スカートははいておらず、その下はスパッツだ。あと猫耳つけてる。 極めつけは楓だ。メイド服だ。ふりふりのメイドさん姿だ。犬耳つけてる。あと、ついでにガーターベルト着用だ。 なんつーか、もうこれは笑うしかなかった。 本当になんで自分はこんな依頼受けちゃったんだっけか、と自問自答して頭を壁にぶつける思いだった。 『コスプレ姿で学園のパトロールを行い、不審者撲滅キャンペーンを行う』 昨日、刹那の言っていた言葉が、龍宮の頭を過ぎる。 そして手渡された白のスクール水着。サイズは自分の使っている水着よりも一回り小さかった。後になって気付いた。 本当、あの時は多分脳味噌がやられていたんだろうな、と思う。 普段はサングラスをかけて顔を隠し、さらに『隊員スーツ』とかいう、設定として決まっている普段着と変わらぬ 上下の服を着て見回りをするらしいが、不審者を見つけた場合、即時『隊員スーツ』を脱ぎ捨てて、中に着ている コスチュームを曝け出して戦うらしい。 名付けて、『麻帆良コスプレ戦隊麻帆レンジャー』……って笑えない。笑えないわこんなのは。 自身の行動と、昨日の内に説明された作戦概要を思い出して、龍宮はなんか目頭が熱くなる思いだった。情けなくて情けなくて。 加えて、今のこの自分の醜態。 両足を肩幅に開いて立ち、左目を閉じる。口元は少し開いて笑顔の形に。 右手をチョキの形にして、右目に当てる。左手は正面に向けて、丁度指で銃の形を作っている。 なんというか、それは決めポーズというらしかった。本格的に戦隊もののノリらしい。 さらに自分に割り当てられた、『コスホワイト』という固有名称、及び決め台詞。 あんまり思い出したくないのであえて詳しくは言わないが、確か『白いスク水月夜になんたら』とか、手渡された 資料に書いてあった気がした。 ――――つまり、今までの情報を総合して言えば、龍宮達はこういうことをするのである。 普段は隊員スーツにサングラス姿で麻帆良を見回り 不審者を見つけたら「待てい!」とか言いながら颯爽と登場し 爆音(エヴァの魔法でどうにかするとか)と共に華麗に変身して(隊員スーツ脱ぎ捨て) 刹那から続けて古菲→龍宮→楓→エヴァの順に決め台詞、そして決めポーズ 背後で色とりどりの爆発 流れるテーマソング 不審者成敗 なんて陳腐な戦隊ヒーローの流れだろうか。 龍宮は死にたくなった。もしもこれで正体がバレたら、龍宮は学校辞めるつもりだった。決心は固かった。 「ちょぉぉぉぉぉぉぉっと龍宮ちゃぁぁぁぁぁぁん、笑顔がまだ硬いわよぉぉぉぉぉ! もっとこう! もう歯茎見えるか見えないかって感じの笑顔で! いや、むしろ見せない! 歯茎のチラリズムを 大切にしてっ! サービスしない、そんなガバッと開けてサービスしたら駄目! もっとギリギリの感じを演出してっ!」 ジョン=トナカイの駄目出しが入る。腰を振りながら歩く独特の歩き方で龍宮に近づき、びしりと指を突き立てた。 半分吹っ切れた龍宮は流れに身を任せ、顔の筋肉を変に使いながら笑顔を作る。 私はもう駄目かもしれない、とか思いながら。 ■ 結局、決めポーズの練習は朝の七時まで続いた。 最後に決め台詞と変身を含めた一連の流れを通しで行い、決めポーズの練習は終った。 ジョン=トナカイは、「最初は右も左もわからないひよっ子ガールだったあなた達が、今はいい目になったわね……」とか 言いながら涙を流して、練習を終えた五人を祝福した。 その時、既に正気を失いかけていた五人は、よくわからないが「せーんせーい!」なんて叫びながらジョン=トナカイの 胸に飛び込んでいった気がする。ジョン=トナカイの方は、予想以上に力強い五人に押し倒され、頭を強打して入院したらしいが、 そんなことはもはや気にならなかった。 練習を終えた五人は、すぐに制服に着替えて学校に向かった。 担任である齢十歳の子供先生の下で授業を受け、休み時間はどこにも行かずにひたすら資料に目を通した。 学校はあっという間に終わり、そして本番の時が近づく。 ■ 夜。 コウモリ飛び交い、薄暗い街頭が人工的に道を照らし、ざわめく木々が嘲るように人々を見送る。 空に浮かぶ月は、まるで手の届かぬ黄金のよう。 羽虫がせわしなく動き回り、石のタイルを踏む音は、不気味な夜道に反響する。 「くっそー、なんで私がパシりなんざやらなきゃなんねーんだ……」 言って、長谷川千雨は軽く舌打ちする。オレンジ色の髪をはためかせ、早足で女子寮に続く石畳の 道を歩いていた。 両手には大きなビニール袋。中に入っているのは、スナック菓子やらジュースやら、総額五千円相当の ジャンクフード。クラスメートとのジャンケンに負けた千雨が、嫌々コンビニで買ってきた食糧だ。 「……ったく、大体ダイエットがどーのとか言ってる奴が、なんでポテチのコンソメパンチなんぞ喰うんだか…… あー、腹立つ」 尚もグチグチと独りで呟く千雨は、傍から見たら立派なサイコさんだ。 元々、千雨は他人との関わりを極端に嫌う。唯一話をしているといえば、あの道化の少女くらいなものだろうか。 (……ま、なんだかんだであいつが笑ってるのを見てーだけかもな……) ぽつりと心の中で呟いき、頬を緩めて―――― がさり。 音がした。 「!?」 突然のことだった。 草むらが動き、微かな音がしたかと思うと、まるで風のように、一つの影が駆けてきたのだ。 影はそのまま千雨に激突して、影と千雨はもつれこむように石畳の上に倒れた。 「うわあああああああああ! なんだお前はぁぁぁぁぁぁ!!」 千雨は仰向けで地面に倒れ、その上に影が馬乗りに乗っかっている。 千雨が絶叫し、影がゆらりとその顔をのぞかせた。 月明りの元に照らし出されるのは、イボだらけの醜悪な男の顔。 めがねをかけ、妙に湿った豚のようなその顔を不気味に歪めた男は、ハァハァと気味悪く呼吸をする。 臭い。猛烈に臭い。相手とかなり距離が離れているはずなのに、それだけでもう恐ろしく臭い。 林間学校で行ったぼろぼろのキャンプ場の、お前それ何十年前からあるんだってくらいに荒廃したトイレの、 一番奥にある一番換気していない便器の中にティッシュペーパーを漬け込んで五年ほど放置した臭いといっても まだ生ぬるい、ってくらい臭い。 「ちちちちち、ちうタン……ちうタン見つけたぁぁ〜……」 むはー、むはー、と男が興奮したように笑みをこぼす。 月明りに照らされた、影の落ちた男の顔は七割増し(当社比)醜悪に見える。 「な、な、なんだお前ぇ! ちうってなんだ!? 勘違いだヒトチガイだ! どけよ! 離せよ!」 千雨は必死に叫び、ばたばたと暴れる。しかし、やけに太った男の巨体は全く動こうとしない。 ちうというのは、千雨がインターネット内で名乗っている、いわばハンドルネームだ。 実は著名なネットアイドルである千雨は、何かと熱烈なファンに迷惑することがある。この男もその類いの―― それも、大分性質の悪い奴なのだろう。 ここで自分をちうと認めるってことは、処(ピー)とかハード(ピー)とか、なんか猟奇的な結果しか招かない。 千雨は必死に否定を続ける。 「知らん知らん知らん知らん知らん知らん知らん知らん知らん知らん知らん知らん知らん知らん知らん知らん知らん!! 絶対知らん! 私はちうなんて知らねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 「はぁ、はぁ、嘘つくのはいけないよちうタン……僕はちうタンのことならなんでも知ってるからね……友人関係も、 実家も、スリーサイズも……ハァハァ、そして僕が好きだってことも……(´Д`)ハァハァ」 「やめろ馬鹿ぁぁぁぁぁぁ! 顔近づけるな! 息すんな! どけどけどけどけぇぇぇぇ!!」 「はうぁああ、ちうタン、あんまり動くと……そんな、うっ」 「ぎゃああああああああああああ!! お前この話を掲載禁止にするつもりかっ! 馬鹿どけ死ねカス! ぎゃああああああああああああ!! 何恍惚な表情してんだお前ちょっと待て待て待て!」 混乱した千雨と、興奮した男が大騒ぎしながら動き回る。 しかし、いくら騒いでもその声は誰にも届かなかった。元々、女子寮は定時刻以降の外出を校則として禁止している。 今の時刻は午後九時。外出禁止時刻をとっくに過ぎている時間帯だ。 人がいる訳がない。 ――――しかし、ヒーローはいた。 「待てぃ! そこの不法侵入強姦未遂男ァァァァァァ!!」 突如響いた怒鳴り声に、男の注意が一瞬それる。 その瞬間を逃さずに、千雨は足を無理矢理突き上げる。丁度千雨の膝が、男の急所に直撃した。 たまらず男は千雨の上から転がり落ち、その隙に千雨は脱兎のごとく女子寮に向かって走り出す。 「痛ぁぁぁぁぁぁぁっ!! ってああああああちうタン! ちうタ――――(゜A゜)――――ン!!」 股間の痛みに転げまわりながらも、暗闇の奥へと走り去っていった千雨の方を向いて叫ぶ男は、 なんか傍から見てて凄い複雑な動きでぴょんぴょん跳ね回る。この痛み、男にしかわからない。 「はっはっはっはっは、悪の先に待つのは破滅のみ!」 再び声が聞えて、男はあくまで股間を押さえながら辺りを見回す。 しかし、いくら見渡してもそこにあるのは、植え込みと街灯、そして無機質な石畳だけで、人が 身を隠せるような場所はほとんどなかった。 「く、くそっ、どこだ!? どこにいるんだよぉ、何するんだよぉ、ちうタン逃げちゃったじゃないかよぅ!!」 半泣きの男は、子供のように大騒ぎしながら辺りを見回し、道端の石ころをぶんぶん投げつける。 しかし、その一つさえ声の主に当たることはなかった。 それもそのはず、そいつらは―――― 「――――――――な、なんだとぅぉぉぉぉぉぉぉ!!」 上空にいたのだから! 「とぉっ!」 声が叫び、上を向いた男の視界が突然光に染まった。 「ぐわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!」 焼けるような目の痛みに、たまらず男は目をつぶる。 その間にそいつらは地面に降り立ち、叫んだ! 「――――変身!」 もう、迷いも羞恥心もない見事な叫びだった。 その五人――――刹那、古菲、楓、龍宮、エヴァの五人は、素早く例のコスチューム姿になる。 「う……くそぉ、お前ら一体何――――」 尚もちかちかとする目をひん剥いて、男はふらつく足で体勢を整えながら五人を凝視する。 ――――瞬間、時間が止まった。いや、止まったように思えた。 冬らしい張り詰めた空気の中、立ち塞がる五人の少女。 左から犬耳メイド・猫耳セーラー服・赤ブルマ・白スク水・幼稚園児。何故か全員グラサン着用。 なんというか、コメントし難い光景だった。男はメイドもセーラー服もブルマもスク水も幼稚園児も好きだったが、 今ここで唐突に現れられると、正直どうしていいかわからない。 なんというか、湖でワカサギ釣りしてたら、マグロが釣れちゃいました、とかそんな感じだ。 「……えーと、その」 男が声を出しかけるが、唐突に真ん中の体操服少女が叫んだために、途中で言葉は遮られる。 「赤いブルマは正義の証! 鳴かぬなら、ミンチにしようホトトギス!」 ええぇー、と男が言うが早いか、 「コスレッド! 紺色ブルマは邪道なの!」 どかーん。 背後で赤い爆発と共に粉塵が舞う。 そして静寂。 「……あの、ちょっと」 「上だけセーラー! フェチ萌え上等スパッツ上等!」 男は再び声をかけるが、やっぱり途中で遮られ、セーラー服が叫ぶ。 「コスイエロー! 好きな物はカレーという都合上の設定!」 どかーん。 背後で黄色い爆発、あと粉塵。 ……………………。 また静寂。 「いや、だから」 「白いスク水月夜に踊る! 悪を倒せと轟く声よ、私が一肌脱ごうじゃないか!」 また遮られる。 「コスホワイト! 白い水着は生徒会長特権よ!」 どかーん。 白い爆発(以下中略) そして静寂。 「そんな格好してて恥ずか」 「ちょっとそこ行く御主人様よ! 拙者の御奉仕受けてはみぬか!?」 男の言葉を(略) 「コスブラック! 全くワガママ御主人様が!」 どかーん。 黒い爆発(略) そして静(略) 「あのですね、そのですね」 「お兄ちゃーん! エバね、ひらがなが書けるようになったの!」 男n(略) 「コスブルー! お兄ちゃん、わたし、お兄ちゃんのお嫁さんになるの……」 どかーん。 青い(略) そs(略) …………………………。 「えーと、それで……あなた方は……」 「五人揃って!」 男の言葉なんぞ知るものか、と五人が叫ぶ。 そして、全員一斉に決めポォォォォォォォォズ!! 『麻帆良コスプレ戦隊、麻帆レンジャー!! 悪い奴ぁいねがぁぁぁぁ!?』 どこ―――――――ん。 背後で大爆発。 どこからか流れてくるテーマソング。(『戦え!麻帆レンジャー』 歌=ささぎいざお) 「………………」 なんつーか、壮絶な光景が猛烈なスピードで流れていった。 なんつーか、男はもうだんだんどうでも良くなってきていた。何か、母親が恋しくなってきた。 尚も決めポーズをとる五人を尻目に、男はただ茫然とその姿を見つめている。 すると五人は、テーマソングが丁度二番に指しかかろう、ってところでゆっくりと決めポーズを解除する。 そのまま全員がびしりと人差し指を突き立て、男を指差す。 「どうした、一歩も動けないか不審者GA! 今すぐなます斬りにしてやるから覚悟しろ!」 コスレッドこと桜咲刹那が叫ぶ。 「はぁぁぁぁぁぁっ、どしたネ! 腰抜かしたカ!? 顔の原型留めないくらいボコボコにしてやるネ、覚悟するヨロシ!」 いつの間にかカレーを食っている、コスイエローこと古菲が言い放つ。 「ふっ、所詮その程度の使い手、ということか……蜂の巣にしてやろう、来るがいい!」 心なしか髪の毛が湿っている、コスホワイトこと龍宮真名が宣言する。 「拙者の御奉仕を受けたくないと、御主人は申すのか? 全く、昨今の御主人は軟弱でござるなぁ」 モップ片手にコスブラックこと長瀬楓が言う。 「お兄ちゃーん、私のお部屋勝手に入ったでしょ? 許さないんだからぁー!」 両手を振り回しながら、コスブルーことエヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルが哮り声をあげる。 男は、何か凄い罪悪感に襲われた。 見てはいけないものを見てしまった気がした。 だけど、だけど少しだけ、動くのが遅かった。 次の瞬間、想像を絶するスピードで放たれたコスレッドの斬撃が、コスイエローの鉄拳が、コスホワイトの銃弾が、 コスブラックの分身残像百列拳が、コスブルーの闇の吹雪が男を襲い―――― ――――悪は消滅した。詳しく言えば、全治三ヶ月だった。 吹っ飛ばされた男が最後に見たのは、決めポーズをとった五人の姿と、草むらに隠れた三つの影。 次の瞬間、男の意識はブラックアウトした。 <―――次回予告―――> 「お兄ちゃん、エバ、魔法使いになるの!」 妹(数百歳)による唐突な『魔法使い宣言』を受けた青年・ナギ・スプリングフィールドは、困った妹のため、自身の息子であるネギを呼び寄せる。 「この子を預かれ、ネギ」 ナギの言葉に驚きを隠せないネギ、しかし否応なしに自宅へと押しかける猫耳吸血鬼で魔法使いのエバンジュリン! そこに現れた謎の刺客とは!? 新番組『魔法少女猫耳ロリメイド妹吸血鬼エバンジュリン』第一話『エバ、初めてのおつかいはするめイカ』 見ないとケツから手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わすぞ♪(野太い声で) (予告が実現するかどうかは不明です) ■ 「――――ということで、報告は終わりネ。これで良かったカ?」 麻帆良学園中等部、学園長室。 巨大学園都市として各地に名を馳せる麻帆良の学園長は、その立派な髭をゆったりと撫でながら、ふぉふぉふぉ、と 独特の笑い声を漏らした。 静かな朝の陽射しが射し込む学園長室は、暖かな空気に包まれており、優雅なデザインの椅子に座った学園長の他、 三人の少女が立っていた。 一人は、黒髪を両脇でダンゴのように丸めた、人懐っこい笑みの少女。 もう一人は、三つ編みにした髪の毛と、アンバランスな大きさのメガネが可愛らしい、白衣姿の少女。 そして最後は、エメラルドグリーンの無機質な瞳と長髪に、耳につけたアンテナが奇妙な、長身の少女。 三人共、刹那や楓のクラスメイトで、麻帆良学園中等部三年A組の生徒だった。 「いやー、まさかあの五人があそこまでノリノリでやってくれるとは……機械の力とは恐ろしいものじゃのぉ」 そう言って、学園長は右手に持った長方形の装置をひょいと持ち上げる。 五つの調節ネジが取り付けられたそれは、それぞれの調節ネジの上に『龍宮』『長瀬』など、筆文字で書かれていた。 さらに調節ネジの左右には『ノリノリ』と『普通』という二つの文字が掘られており、今は『普通』にネジの ダイヤルが合っている。 「まーネ。麻帆良工学部と、麻帆良心理学研究会の合同作品……どんな人間の心理だって、自由自在ネ」 言って、ダンゴ髪の少女――――超鈴音はニャハハ、と屈託のない笑顔で笑った。 「対象の頭にアンテナを付けなきゃいけないのは面倒ですけどね〜。茶々丸が手伝ってくれて助かったよ」 「……いえ、どんな形であれ、麻帆良の治安を守ることは必要ですから……」 間延びするような口調の、メガネをかけた少女――葉加瀬聡美の言葉に、エメラルドグリーンの無機質な少女、 絡繰茶々丸は、感情のこもらない静かな声で、呟くように返した。 「なにはともあれ、このカメラに写った写真をダシに、あの五人を脅迫……もとい交渉して」 「キャラクターグッズやブロマイドを作って一儲け……もとい今後の麻帆良のパトロールを任せる、と!」 「……くっくっく、超くん、君達も悪じゃのぉ……」 「……いえいえ、学園長ほどでは……と言っておくべきでしょうか、この場合は」 ひょっひょっひょ、と学園長、超、葉加瀬の含み笑いが学園長室に響く。 簡単に言ってしまえば、これはそういう計画だったのだ。 最近、麻帆良周辺の空気が不穏になってきたため、ガードマンを多く動員させる計画があったのだが、 素人の警備員を二束三文で雇っても役に立たない。そこで、麻帆良随一の武闘派五人組に警備を依頼をすることに したのだが……なんというか、わざわざ普通に雇うのもおもしろくない。 依頼料は否応なしに高くなってしまうし、それが何日も何週間も続くとなると出費は大変なことになるだろう。 そこで考えたのがこの計画なのである。 五人の心理状況を機械で制御して、半ば無理な依頼を受けさせる。 依頼の内容は、今流行りの『萌え』をテーマにした阿呆みたいな内容のもので、戦隊もののノリを作り上げる。 あとは実際に五人を動かして、その後を超と葉加瀬、茶々丸の三人が尾行し、不審者との戦闘になったらすかさず 記録機器を使って録音・撮影を行うのだ。(ちなみに、あの時テーマソングをかけていたのは超達だった) 仕上げに、この記録で五人を脅迫……否交渉し、キャラグッズなどで一儲け……うまく行けば、こちらが全体の 主導権を握る事もできるかもしれない。 完璧な計画だった。一点の穴もない。 「ふふふふふふふふふふふふふふふふふ…………」 「うくくくくくくくく………」 「あーはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」 テレビの三流悪役よろしく、三段階笑いをする三人を尻目に、茶々丸はゆっくりと学園長の席から離れる。 学園長の真後ろ、大きな窓から少しずつ、少しずつ離れ、部屋の隅へと移動した。 「はっはっはっは……あれ?茶々丸どしたネ?突然そんなところまで移動して」 三人が談笑する、その輪を外れた茶々丸は、いぶかしげな表情の超を見つめつつ、右手で学園長の背後――大きな窓の方を指差した。 「――――はへっ?」 その時、ふっ、と、窓の外に黒い輪郭が浮かびあがり―――― がっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! 「ギゴルメナァァァァァァァ!!!」 「うきゃああああああああああ!」 窓を蹴破って、黒い影が学園長室へと突入してきた。 「な、一体なんですかぎゃふんっ」 一発の銃声が響き、葉加瀬の額にペイント弾が撃ちこまれる。 赤いペイントがばっと噴出し、葉加瀬は学園長室の絨毯に転がった。ちなみに、学園長は背中に大量のガラスを浴び、 なんかスプラッターなことになってる。 「――――チャ――――…………オ――――………・・」 ゆらり、と影が立ち上がる。 殺意の篭った瞳。蛇のように細く、獲物を捕らえるために研ぎ澄まされた眼光。 迷彩色の軍服に、びっしりと長方形のマガジンを装着し、両手に持ったT字型の黒光りするサブマシンガンの 銃口を超に向けたその影は、地獄から湧き上がるかのような声で、超に語りかける。 「わわわわわわわ……た、龍宮……ちょ、ちょっと待つヨロシ……落ち着くネ……」 体中からだらだらと汗を流し、超は目の前に立ち塞がった龍宮の方を向く。 しかし、その瞳は滅茶苦茶泳いでいた。危機に直面した小鹿のようだ。 「まさか、あんなアンテナを付けられていたとは――――全く迂闊だったよ。だが、最後の最後に油断したな? もしやと思って盗聴していたが……今地獄に送ってやる。覚悟しておけ」 ごりり、とサブマシンガンの銃口が超に突きつけられる。鉄の感触がやけに冷たい。 「ちょ、ちょっと待つネ! こっちには記録があるのヨ!? 私に危害を加えた場合、私の自室に置いてある パソコンが自動で麻帆良スポーツに今回の記録を送りつけるネ! 下手に動かない方が良いアルよ!?」 超は右手に持った携帯電話のボタンに指をかけ、ややろれつの回らない口調で叫んだ。 麻帆良スポーツとは、麻帆良学園最大の学園新聞製作グループのことである。 麻帆良のありとあらゆる情報を司る麻帆良スポーツは、同時にゴシップネタや悪ふざけ的な内容の記事で 有名なのだが、その浸透力は爆発的で、ネタにされた生徒や教師は骨になるまでしゃぶり尽される運命にある、と 各地で恐れられている。麻帆良最強の情報機関なのだ。 「……記録というのは、これのことか? 超鈴音」 その時、超の横で冷徹な声が響いた。 金髪をずらりと伸ばし、漆黒のオーラに包まれたそれは、まごうことなきロリコン吸血鬼――エヴァンジェリン。 エヴァの右手には数十枚の写真が、まるで扇のようにばさりと握られている。 「これのどこが証拠になるのか――――教えてもらおうか!」 ばしん、とエヴァが写真を放り投げる。 デジタルで撮った写真を、プリンタで出力したそれは、例の『麻帆レンジャー』姿の五人を写したものだった。 ただし、それは―――― 「――――顔が、切れてる――――」 超は写真を眺め、呆然と呟いた。 そう、写真に写った五人組は、しかし首から上が写っていないのだ。 これでは、誰が誰だか全くわからない! 「ふふん、貴様の陳腐な悪行などに、茶々丸を使ったのは間違いだったな」 勝ち誇ったようにエヴァが言い放つ。 そういえば、デジタルでの記録には茶々丸を使っていた。音声記録やデータ記録は、すべて茶々丸でまかなえるからだ。 ということは―――― 「――――茶々丸! 裏切ったアルか!?」 超が叫ぶ。 すると、茶々丸はゆっくりとした足取りで学園長室を横断し、エヴァの近くで立ち止まった。 「すいません、超。ただ、マスターの醜態を晒すのは、従者として、どうしても堪えられないのです」 あくまで淡々と言う。 「あとは貴様のこのカメラ――――もしもの時のアナログカメラも、こうして私の手の中にあれば恐ろしくもなんともない」 ククク、と忍び笑いを漏らして、エヴァは手に持ったカメラを地面に叩き付けた。 カメラが破砕音を響かせるその前に、エヴァは右足をカメラに叩きつけ、粉砕する。 「――――超鈴音、あなたの負けだ」 いつの間にか背後に立っていた、桜咲刹那が言う。 「前々から喰えぬ御仁であったが、これにて悪巧みも終わりでござるなぁ」 龍宮が蹴破った窓から、ゆっくりと長瀬楓が降り立つ。 「全く、油断も隙もないネ。一度反省するヨロシ」 楓と一緒に窓から降り立った古菲が、あきれたように呟く。 「――――だそうだ。反省しろ、超」 龍宮がサブマシンガンの引き金に指をかけた。 「――――おのれ、今回はヘマをしたヨ……しかしこの恨み、必ず晴らしてやるネ! 覚悟するヨロシ!」 ――――超が携帯のボタンを押したのと、銃声が聞えたのは同時だった。 ■ 「全く、困ったものだな、超も」 麻帆良中学の昼休み、屋上で弁当を食べる龍宮と刹那は、今日の出来事を振り返り、やれやれと肩をすくめた。 あの後、昏倒した葉加瀬と超、そして血塗れの学園長は、同じクラスの保険委員である和泉亜子に全て任せ(その後どうなったかは 全く知らない。何か『出してぇぇぇ、ここから出してぇぇぇぇ』なんて叫び声が聞えた気がしたが、扉を溶接しておいたので、どうなってるかは 全くわからない。)、龍宮達は教室に戻った。 その後は、欠席者三名の中で普段どおりの授業が行われ、今こうして昼休みにいたる。 「しかし、危うく私達が痴女扱いされるところだったな、龍宮。特にお前のあれは酷かった」 くっくっく、と笑う刹那に、龍宮はむっとしながら横目で睨む。 「何言ってるんだ、刹那、お前だって十分酷かったぞ? 赤いブルマなんて、お前一体どこの人間なんだ」 負けじと言い返す龍宮に、今度は刹那が返す。 「そんなことないだろう、大体お前の水着、あの胸に「たつみや」って書いてあるのは――――」 あれ? そこで、刹那は少し思案する。 それは、あまりに怖すぎる一つの結論。 「刹那、どうした?――――」 突然硬直し、小刻みに震えだした刹那をいぶかしみ、龍宮が声をかけようとする。 しかし、それと同時に、龍宮の頭を過ぎる一つの結論。 それは、ちょっとばかしというかかなり危険な一つの結論。 『――――あ。』 二人の声がハモった次の瞬間、カメラを構えた『そいつら』の大群が、屋上の扉を蹴破った――――。 了. ■ 「――――はっ!!」 そう叫び、少年はベッドから飛び上がった。 少年の名はネギ・スプリングフィールド。中学教師だ。 ネギははぁはぁと荒く息をつき、天井を見上げた。 「――――夢、か――――」 「ってお前の夢かぃぃぃぃぃぃぃ!!」 画面外から飛び蹴りをかます明日菜。 「アジャパァァァァァ!!」 断末魔の絶叫をあげるネギ。 フェードアウト。 了 あとがき 『救えん奴等に花束を』を仕上げたその日に、立て続けに書き上げた作品です。 急ごしらえだった割にはなかなか良い評価をいただいたのですが、ところどころ粗の見える仕上がりとなりました。 全編馬鹿なノリで、恐らく自分の書く最後のギャグ物になるでしょうね……。気分がこういう方向に向くのは珍しいので。 あ、エヴァンジェリンについてはもう後悔してませんよ?(ヲ |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||